スタッフブログ
アサヒグループ大山崎山荘美術館のスタッフが交代で山荘の日々を綴るブログです。展覧会に関する内容や山荘のこと、四季の庭園についてなど、美術館のさまざまな情報をスタッフがご紹介します。イベントの最新情報もこちらでチェックしてください。
夢をめぐる展 ご紹介その4
「夢をめぐる」展のご紹介記事も今回が最終回です。
本日は、本館の展示作品から、スリップウェアについてご紹介いたします。
スリップウェアとは?
「スリップウェア」とは、うつわの素地をクリーム状の化粧土(スリップ)で装飾して、焼成した陶器(ウェア)のことです。スリップをスポイトなどに仕込み、流しだして文様を描いたりするのが主な技法で、古代メソポタミア以来各地で制作され、とくに17世紀のイギリスで発展しました。18世紀に入ると、家庭の台所で鍋や皿として用いられるなど、庶民の間で普及しましたが、産業革命後は軽く使いやすい陶器の量産品が出回るようになり、スリップウェアは急速に姿を消しました。
本作《イギリス スリップウェア線文鉢》は、ジグザク、うねうねと勢いよく線が描かれています。素朴な色合いですが、とても存在感があります。
民藝運動での再生
このスリップウェアに注目し、世に紹介したのが柳宗悦ら、民藝運動を推進した同人たちでした。バーナード・リーチと濱田庄司は、1920年イギリスに窯を築いて研究と試作をかさね、18世紀のスリップウェアを復元することに成功しました。また、濱田が持ち帰ったイギリスのスリップウェアを見た河井寬次郎も、すぐにそれを模して制作を行ったということです。
途絶えていたイギリスのスリップウェアは、時を超えてリーチ、濱田、そして河井に大きな影響を与え、以降の彼らの作品にいかされていきました。
現在美術館では、18世紀のイギリスで作られたものから、バーナード・リーチ、濱田庄司、河井寬次郎が制作したスリップウェアまでご覧いただけます。見比べて、お気に入りを探してみても面白いかもしれませんね。
(R)
夢をめぐる展 ご紹介その3
本日は、本館の展示作品から、ラスター彩陶器とデルフト陶器についてご紹介いたします。
ラスター彩陶器
本作《スペイン ラスター彩鉢》は、展覧会の冒頭、タイトルの隣に展示されています。
「ラスター」とは、「きらめき」を意味します。銅彩による細かい模様がびっしりと描き込まれ、その名の通り、とてもきらびやかなお皿ですね。
ラスター彩はイスラーム陶器を代表する装飾技法で、はじまりは9世紀頃。メソポタミア、エジプト、シリア、イランにあらわれたといいます。13世紀には遠くイベリア半島へ技法が伝えられ、16世紀頃まで盛んに制作が行われました。
イベリア半島で作られたラスター彩陶器は「イスパノ・モレスク」ともよばれ、その洗練・華麗・豪奢のおもむきは、新世界発見当時の富裕なスペインの象徴ともなりました。
デルフト陶器
その奥の展示室・山本記念展示室でとくに注目していただきたいのが、オランダのやきものであるデルフト陶器です。
タイルは湿気に強く水洗い可能で、湿潤なオランダでは室内装飾としても大いに好まれました。オランダ黄金時代の17世紀風俗画では、室内風景にタイルが描かれることもあり、ヨハネス・フェルメールの絵画作品でご存じの方も多いのではないでしょうか。
オランダのやきものが目覚ましく発展したのは17世紀。スペインからの独立戦争に勝利し、いち早く東洋貿易に進出すると、オランダ東インド会社が膨大な東洋の陶磁器をヨーロッパにもたらしました。
ヨーロッパの陶器にはない薄さと透明感を備えた東洋の磁器は「白い宝石」として珍重され、王侯貴族を夢中にさせました。また、オランダの諸都市で東洋磁器を模した絵付陶器が生産され、ヨーロッパ各地で絶大な人気を博しました。東洋磁器の影響とオランダ風景画の伝統が相まって、絵付けは独自の発展を遂げました。
本作《オランダ 藍絵筥》は、展示作品のなかでもひときわ小さなものですが、表面には水辺にたたずむ婦人の絵がとても細かく丁寧に描かれており、目をこらして見たくなる作品です。
様々な文化が交じり合い、人びとの夢やあこがれが投影されたヨーロッパ陶器。その背景に思いをはせながらお楽しみいただければ幸いです。
(R)
今日の庭園情報