スタッフブログ
アサヒグループ大山崎山荘美術館のスタッフが交代で山荘の日々を綴るブログです。展覧会に関する内容や山荘のこと、四季の庭園についてなど、美術館のさまざまな情報をスタッフがご紹介します。イベントの最新情報もこちらでチェックしてください。
講演会「日本古来の文化をみなおし、未来を紡ぐ"リシンク"」
本日は、9月18日より開催しております開館25周年記念「和巧絶佳展 ―令和時代の超工芸」の関連イベントとして、講演会を開催いたしました。
本展出品作家である舘鼻則孝氏をゲストにお招きし、「日本古来の文化をみなおし、未来を紡ぐ"リシンク"」をテーマにお話しいただきました。
舘鼻氏は「日本の芸術は工芸品にある」との考えのもと、独自の視点と発想で伝統的な工芸技術を現代の表現として再生する創作活動を通して、新しい日本文化を発信されています。その創作活動は作品制作にとどまらず、伝統芸能とのコラボレーションなど活躍の場所は広がり続けています。講演では活動の一端を映像で紹介していただき、お客様の理解も深まった様子でした。
"リシンク"とは過去の日本文化を見なおし、その延長線上にある"いまをみつめる"ということ。舘鼻氏は、各地で活動する工芸職人たちと協力し、過去の文化として存在してきた日本の工芸品を、現代のものとして未来に残していくことが、アーティストとしての自分の使命だとも話されていました。
一時間半にもおよぶ講演会となりましたが、舘鼻氏の示唆に富んだお話しに、皆さんも大いに刺激を受けた様子でした。
12月5日(日)まで開催しております「和巧絶佳展 ―令和時代の超工芸」では、舘鼻氏をはじめとする現代工芸作家12人の作品をご覧いただくことができます。
現代日本の工芸を牽引する若き作家たちの熱い想いに是非触れてみてください。
10月に入り美術館の庭も秋本番を迎えつつあります。
皆様のご来館を心よりお待ちしております。
(O)
和巧絶佳展 ご紹介その1
ただいま開催中の展覧会「開館25周年記念 和巧絶佳展」について、本日よりスタッフブログでご紹介してまいります。
本展覧会では、日本の伝統や美意識に根差した工芸的な作品によって、いま最も注目されている1970年以降に生まれた作家、12名の作品を展示しています。
12名の中から、今回は舘鼻則孝氏、桑田卓郎氏、深堀隆介氏の作品を一部ご紹介いたします。
・舘鼻則孝 Tatehana Noritaka
《Heel-less Shoes》(2014)
こちらの作品は、展覧会の入り口でご覧いただけます。ヒールのない、真っ赤な厚底の靴。オブジェのような斬新なデザインで、足の形に沿ったエレガントなラインが印象的です。
〈Heel-less Shoes〉は、舘鼻氏が花魁(おいらん)の高下駄(たかげた)に着想を得て制作したもの。レディー・ガガやダフネ・ギネスなどに愛用されていることで有名です。様々なバリエーションのあるシリーズ作品で、展覧会ではこのほかにも、赤や青のクリスタルガラスで表面全体を覆ったタイプなどを展示しております。
舘鼻氏は1985年、東京都生まれ。高校生の頃に川久保玲に憧れてファッションデザイナーを志し、東京藝術大学では染織を専攻。江戸時代のファッションリーダーという観点から花魁に関心を持ち、卒業制作では花魁の高下駄とヨーロッパの革のブーツを融合させて《Heel-less Shoes》(2010)を制作しました。高下駄だけでなく、日本刀、木版画、香文化など、日本の伝統文化を再解釈して現代の表現として再生し、過去と現在をつなぐことを課題として、幅広く活動しています。
展示では〈Heel-less Shoes〉のほか、舘鼻氏の追求するテーマである「生と死」を表現した《Camellia Fields》などの作品も展示しております。
《Camellia Fields》(2017)
また10月3日(日)に、舘鼻氏の講演会「日本古来の文化をみなおし、未来を紡ぐ"リシンク"」を予定しております。詳しくはこちら。
・桑田卓郎 Kuwata Takuro
《茶垸》(2015)
《空桃色化粧梅華皮志野垸》(2012)
強烈な色彩と、実際に見たときの作品の量感は圧倒的です。桑田卓郎氏の作品の特徴は、原始的でポップな色使いや、梅華皮(かいらぎ)・石爆(いしはぜ)といった伝統的なやきものの技法をデフォルメして生み出される、大胆な造形にあります。従来の器の概念を覆す作品として、現代アートの分野からも高く評価されています。
桑田氏は1981年、広島県生まれ。小学生のころから図工が好きで、京都嵯峨芸術大学に進学し陶芸を専攻。また高校から大学にかけて、ストリートダンスに身を投じました。その後、広島で作陶をしている財満進氏に弟子入り。当時、クラブで遊んでいた友達に茶碗や徳利を見せたところ、興味なさそうな反応ばかりだったことにショックを受け、やきもので同世代の感覚にも通じるような表現をしたいと考えるようになったことが、現在の作風につながる一つの要因となったそうです。現在は岐阜県に工房を構え、制作を行っています。
・深堀隆介 Fukahori Riusuke
《百舟》(2018)
升の中で金魚が泳いでいるように見えますが、この金魚は実は、透明な樹脂に描かれた絵。エポキシ樹脂の表面に、アクリル絵具で金魚の体の一部分を少しずつ描き、それを層状に重ねていくことで、立体的でリアルな金魚の姿を描きだしています。
金魚の絵はもちろんのこと、泳ぎ回る金魚が作る水面の波紋や、水に浮かぶ落ち葉まで非常に細かく作り込まれており、すみずみまで見ごたえのある作品です。
《百舟》(2018)(部分)
深堀氏は1973年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学を卒業した後、ディスプレー会社に勤めますが、自分の作りたいものを作りたいとアーティストの道へ転向。作家活動をしていく中で、制作に行き詰まりアーティストを辞めようとした時、部屋で飼っていた一匹の金魚に魅了され、金魚を描きはじめました。2002年に透明樹脂の層に描く技法を編み出し、現在は横浜にアトリエを構えて金魚を描き続けています。
(R)
夢をめぐる展1万人目のお客さま