スタッフブログ
和巧絶佳展 作品ご紹介 その5
本日は「和巧絶佳展」で展示している作品の中から、髙橋賢悟氏、池田晃将氏の作品をご紹介いたします。
・髙橋賢悟 Takahashi Kengo
《flower funeral -goat-》(2019)
《flower funeral -goat-》(2019)(部分)
flower funeral -goat-は無数の小花で羊の頭蓋骨を形作った作品です。アルミニウムの大きな花と、どこまでも咲いている小さな花、それらの薄さは驚異的な0.1mm。
全体を埋め尽くしている小さな花は、実物の忘れな草を原型としており、実物の花は鋳造過程で焼失しますが、その形はアルミニウムに置き換わります。この技術は真空加圧鋳造と呼ばれています。花のひとつひとつを、膨大な時間と手間をかけて丹念に作っていく、その情熱と技術の確かさに、思わず息を呑んでしまいます。
制作者の髙橋氏は、鋳金(鋳造)という技法にこだわり、制作に取り組まれています。膨大な熱エネルギーが注ぎこまれた鋳型を割り、強さの中に柔らかさ、温かさがある作品に触れる感動は、生命が誕生したような感覚に似ていると言います。現代だからこそ存在する素材を選び、その素材美を追求し、新たな技法を生み出すことは今しかできないことであり、その覚悟や深さ、重さを作品に表現されているそうです。
髙橋氏は1982年鹿児島県生まれ。現在は東京藝術大学大学院美術学部工芸科鋳金研究室に籍を置き、研究と制作を続けています。
・池田晃将 Ikeda Terumasa
《Error403》(2020)
《Error403》(2020)(部分)
Error403は螺鈿による無数の数字が並ぶ19㎝角の立方体です。
今回の展覧会に合わせた渾身の一作です。池田氏は「誰もこんなことをやったことはないし、自分としても挑戦的な作品」と話されています。
螺鈿の数字が止めどなく湧き上がり、流れ落ちるさまは、まるでデジタルの泉のようです。他の作品とは異なり、様々な大きさの数字と不規則な配置、ところどころ欠け落ちた立方体はSF映画の一場面を思い起こさせ、見る人を不思議な感覚に誘います。光の加減により螺鈿の色が美しく変化する様子をお楽しみください。
池田氏の数字螺鈿は、レーザーで貝殻をカットしており、技術も現代的です。現代テクノロジーと、作家の技と想像力の融合が、宇宙的な美しさの作品を生み出します。
池田氏は1987年生まれ。千葉県出身。「遺跡や宗教建築のような、細密の集積が生み出す荘厳さを求めて制作していて、古典的とも未来的ともとれない、現代の不確定な表情を映し出せればと考えている」という池田氏の今後の展開が楽しみです。
作品制作にかける強い想いと、想像をはるかに超える緻密な作業を経て作り出されるお二人の作品は、12月5日までご覧いただけます。
是非、美術館まで足をお運びください。皆様のご来館をお待ちしております。
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和巧絶佳展 ご紹介その3
本日は「和巧絶佳展」で展示している作品の中から、橋本千毅氏、佐合道子氏の作品をご紹介いたします。
・橋本千毅 Hashimoto Chitaka
《蝶牡丹螺鈿蒔絵箱》(2017)
《蝶牡丹螺鈿蒔絵箱》(2017)(部分)
幅10センチ余りの箱の表面に、信じられないほど細かい螺鈿(らでん)細工で、鮮やかな牡丹と蝶があしらわれています。白い牡丹の花びらにきらめく虹色、見る角度によって青や黄などさまざまな色が差す葉の緑色、蝶の羽の藍色......。螺鈿という素材がもつ色彩の豊かさを、存分に味わうことができます。
漆工作家の橋本千毅氏は江戸や明治期の技法を対象に、微視的な観察によりその制作方法を推測し、実作して検証するというプロセスを通じて、独自に制作方法の研究を積み重ねてきました。「自分が思い描いた美しいものをそのまま具現化すること」を目指し、下地、塗り、研ぎ、蒔絵、平文(ひょうもん)、螺鈿などの漆の一連の制作工程は全て自身で手掛け、一つ一つの作品に膨大な時間を注ぎ込みます。螺鈿で使う貝材料に関しても、産地や生育条件による違いまで加味し、厳選した材料を加工して使用しているそうです。
橋本氏は1972年、東京都生まれ。筑波大学を卒業後、漆工芸技術を習得し、文化財修復のアシスタントとして漆工芸の修復に従事しました。その後は高岡短期大学産業造形学科(その後、富山大学芸術文化学部)の助手を経て、2006年に漆工家として独立し、富山県で制作を続けています。
・佐合道子 Sago Michiko
《脈打つ》(2020)
《脈打つ》(2020)(部分)
「脈打つ」というタイトルの通り、まるで原始的な生命体が脈を打ち、うごめいているかのような陶芸作品です。作品の表面を覆うひだやそれをとりまく血管のような管、ところどころに不規則にのぞく球体は、見る者にいきものの躍動感や温度、手触りを生々しく想起させます。
佐合道子氏は「いきものらしさ」を陶で表現することをテーマとし、土の可塑性を生かした動きのある有機的な作品を制作している陶芸作家です。ものごころついたころから草木や石、貝殻など身の回りの自然物を収集・観察してきた佐合氏は、それらの仕組みや構成の不思議さから、いきものとは何かという問いに強い関心を持つようになったそうです。作家にとって、いきものらしさの表現とは決して対象そっくりに作るということではなく、「個体増減の表れ方」「成長/成熟の跡」「規則性と不規則性の混在」の3つの要素を織り交ぜることで、変化あるものとしての「いきもの」を作品化しようとしている、とのことです。
佐合氏は1984年、三重県生まれ。金沢美術工芸大学修士課程に進学後、各地の美術館のグループ展への出品を重ねます。2011年には同大学博士課程に進学、2014年に博士課程を満期退学して独立。母校で助手として勤務しながら制作を続け、2019年には博士号(芸術)を取得しています。
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山本茜氏×木田拓也氏対談会
本日は、9月18日より開催しております開館25周年記念「和巧絶佳展 ―令和時代の超工芸」の関連イベントとして、山本茜氏×木田拓也氏対談会を開催いたしました。
木田先生は、武蔵野美術大学で美学美術史研究室教授として教鞭をとられており、現代日本の工芸や工芸家への造詣が深く、本企画展の監修者を務められております。
山本先生は、截金という日本古来より続く装飾技法を用い、截金をガラスに閉じ込める、という世界でも先生にしかできない技法を開発され、創作活動に取り組まれております。
山本先生からは、截金ガラスの製作工程や創作活動への思いについてお話し頂きました。大変な時間とエネルギーを使って制作されている様子に、お客様も思わず引き込まれていました。
また、《源氏物語シリーズ》や、最新作《渦》など、今回出品されている作品についてお話を頂くことで、作品に対する理解がより深まりました。ありがとうございました。
後半は、会場からの質疑応答の時間となりました。
参加者の皆さまからは多くの質問が寄せられ、質問を通じて山本先生の制作へ向かわれる覚悟と姿勢をより深く知ることのできる時間となりました。
12月5日(日)まで開催しております「和巧絶佳展 ―令和時代の超工芸」では、山本先生をはじめとする現代工芸家12人の作品をご覧いただくことができます。
若き作家たちの作品をご覧に、美術館まで足をお運びください。
10月に入り庭の紅葉も一段と色づいてきています。皆様のご来館を心よりお待ちしております。
(IK)