夢をめぐる展 ご紹介その3
本日は、本館の展示作品から、ラスター彩陶器とデルフト陶器についてご紹介いたします。
ラスター彩陶器
本作《スペイン ラスター彩鉢》は、展覧会の冒頭、タイトルの隣に展示されています。
「ラスター」とは、「きらめき」を意味します。銅彩による細かい模様がびっしりと描き込まれ、その名の通り、とてもきらびやかなお皿ですね。
ラスター彩はイスラーム陶器を代表する装飾技法で、はじまりは9世紀頃。メソポタミア、エジプト、シリア、イランにあらわれたといいます。13世紀には遠くイベリア半島へ技法が伝えられ、16世紀頃まで盛んに制作が行われました。
イベリア半島で作られたラスター彩陶器は「イスパノ・モレスク」ともよばれ、その洗練・華麗・豪奢のおもむきは、新世界発見当時の富裕なスペインの象徴ともなりました。
デルフト陶器
その奥の展示室・山本記念展示室でとくに注目していただきたいのが、オランダのやきものであるデルフト陶器です。
タイルは湿気に強く水洗い可能で、湿潤なオランダでは室内装飾としても大いに好まれました。オランダ黄金時代の17世紀風俗画では、室内風景にタイルが描かれることもあり、ヨハネス・フェルメールの絵画作品でご存じの方も多いのではないでしょうか。
オランダのやきものが目覚ましく発展したのは17世紀。スペインからの独立戦争に勝利し、いち早く東洋貿易に進出すると、オランダ東インド会社が膨大な東洋の陶磁器をヨーロッパにもたらしました。
ヨーロッパの陶器にはない薄さと透明感を備えた東洋の磁器は「白い宝石」として珍重され、王侯貴族を夢中にさせました。また、オランダの諸都市で東洋磁器を模した絵付陶器が生産され、ヨーロッパ各地で絶大な人気を博しました。東洋磁器の影響とオランダ風景画の伝統が相まって、絵付けは独自の発展を遂げました。
本作《オランダ 藍絵筥》は、展示作品のなかでもひときわ小さなものですが、表面には水辺にたたずむ婦人の絵がとても細かく丁寧に描かれており、目をこらして見たくなる作品です。
様々な文化が交じり合い、人びとの夢やあこがれが投影されたヨーロッパ陶器。その背景に思いをはせながらお楽しみいただければ幸いです。
(R)